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福島地方裁判所 昭和30年(行)6号 判決

原告 松盛治

被告 福島県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和三十年四月十四日附をもつてなした、つぎの換地予定地指定の変更処分、すなわち(イ)福島県郡山市字燧田一四〇番地(宅地五二坪)、同一四一番地の二(宅地一二坪三合)、同一四四番地(宅地六七坪)を従前の土地としてその換地予定地を一二ブロツク八号とし、(ロ)同一四六番地のロ(宅地一一坪)同一四七番地の二(宅地二坪二合五勺)を従前の土地としてその換地予定地を一四ブロツク二号のロとする換地予定地の指定処分(昭和二十八年二月二十八日附)を、変更して(イ)前記燧田一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二を従前の土地としてその換地予定地を一二ブロツク八号のロとし、(ロ)同一四〇番地を従前の土地としてその換地予定地を一二ブロツク八号のイとし、(ハ)同一四四番地を従前の土地としてその換地予定地を一四ブロツク二号のロとする換地予定地の指定処分(昭和三十年四月十四日附)を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、請求原因として次ぎのように述べた。

(1)  被告は、前記宅地を含む福島県郡山市字郡山駅前一帯に施行された、特別都市計画法に基く土地区画整理事業の施行者であるが、昭和二十八年二月二十八日附をもつて、別紙第一図面の通り、(イ)前記燧田一四〇番地、同一四一番地の二、同一四四番地を従前の土地としてその換地予定地を一括して一二ブロツク八号(七三坪九合四勺)に(ロ)同一四六番地のロ、同一四七番地の二を従前の土地としてその換地予定地を一括して一四ブロツク二号のロ(七三坪四合九勺)にそれぞれ指定した。

原告は、これより先昭和十六年十一月二十九日前記各従前の土地のうち、燧田一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二を前所有者横山益造から買い受けて所有権を取得したが、昭和二十八年十月三日その移転登記を経由した。

(2)  ところが被告は、昭和三十年四月十四日附をもつて前記(1)記載の各換地予定地指定処分を変更して、別紙第二図面の通り、(イ)前記燧田一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二を従前の土地としてその換地予定地を一括して一二ブロツク八号のロ(三〇坪九号五勺)、(ロ)同一四〇番地を従前の土地としてその換地予定地を一二ブロツク八号のイ(四二坪九合九勺)(ハ)同一四四番地を従前の土地としてその換地予定地を十四ブロツク二号のロ(七三坪四合九勺)にそれぞれ指定する処分をした。

(3)  このように一旦指定された換地予定地をみだりに変更する処分は原告の法律生活の安定を害することはもちろん、公共の福祉にも副わないから行政権の濫用であつて違法である。

(4)  この違法な換地予定地指定の変更処分は、つぎのように原告の権利をき損する。すなわち、

(イ)  右変更処分で指定された前記(2)記載の換地予定地のうち一二ブロツク八号のロの上には、訴外柴原光利所有の建物が存在している。

(ロ)  前記一二ブロツク八号は、原告の他の換地予定地である郡山市字郡山駅前一五番地の八と連続した一枚続きであつて、原告は一二ブロツク八号地上に建物を建築所有していたが、前記変更処分後は、一二ブロツク八号のロと右郡山駅前一五番地の八との中間には訴外佐原真吉の換地予定地である前記一二ブロツク八号のイ(郡山駅前一五番地の七)が介在することになり、原告は前記建物を取壊さなければならないのみならず、一二ブロツク八号のロの宅地としての利用価値は変更処分前に比較して低減する。

以上のように被告の本件換地予定地指定の変更処分は、違法でありかつ原告の権利をき損するものであつて、しかも前記変更処分のうち一二ブロツク八号のロとそれ以外の部分は不可分的に関連しているので、その全部の取消を求める。と述べた。

そして被告の抗弁に対し、つぎのように述べた。

被告は、右宅地一四一番地の二、一四六番地のロ、一四七番地の二の所有権が異動した事実を熟知しており、このように土地区画整理事業の施行者が権利異動について悪意である場合には、特別都市計画法施行令第十一条の規定による郡山及び平特別都市計画事業土地区画整理施行規程第十九条第一、二項は適用がないものである。また仮りに、右施行規程同条の適用があるとしても同規定は、特別都市計画法施行令に基いて県が設けた施行規定であるから、同条第三項のような権利喪失を伴う規定を定めたことは右施行令によつて委任された規程制定の権限を逸脱したものであつて、この点憲法に違反する無効なものである。更に原告は、被告の昭和二十九年十一月五日附「換地(借地)予定地の協定について」という照会に接して、佐原真吉と同人と共通した換地予定地をどのように分割するかについて協議したが協議が成立しなかつたので、その頃同人とともに復興事務所に出頭してその旨口頭で申し述べたものである。その他被告主張の事実は否認する。

と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁としてつぎのように述べた。

原告主張の請求原因事実中、被告が福島県郡山市字郡山駅前一帯に施行された特別都市計画法に基く土地区画整理事業の施行者であること、被告が昭和二十八年二月二十八日附をもつて原告主張どおりの換地予定地の指定処分をなしたこと、原告が前記燧田一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二について、所有者であつた横山益造からその所有権移転登記を経由したこと、被告が昭和三十年四月十四日附をもつて、前記換地予定地の指定処分を変更して原告主張どおりの前記(2)記載の換地予定地指定処分をしたことはいずれも認める。原告が右変更処分によつて権利をき損されたことは否認する。すなわち、原告が昭和二十八年二月二十八日附をもつて指定された換地予定地一二ブロツク八号の上に建物を建築したという事実はない。これは、原告が右土地を取得する以前からすでに建築されていたものである。また変更によつて新しく指定された換地予定地一二ブロツク八号のロと、原告の他の換地予定地(郡山駅前一五番地の八)との中間には、訴外佐原真吉の換地予定地十二ブロツク八号のイが介在するが、これは原告に対し借地予定地として指定してあるので、原告の換地、借地各予定地は一括配置されてその利用上の便宜が講じられているのであるから、一二ブロツク八号と一四ブロツク二号のロとに分けて指定された、変更前の処分よりかえつて効果的である、その他の原告主張事実は否認する、と述べた。そして抗弁としてつぎのように述べた。

(イ)  被告の換地予定地指定の変更処分は、新たに権利の移動があつたため更正する必要を生じたので、行つたものであるから、何ら違法でない。すなわち、被告は昭和二十八年二月二十八日郡山市字燧田一四〇番地、同一四一番地の二、同一四四番地および同一四六番地のロ、同一四七番地の二をそれぞれ従前の土地とする前記のような換地予定地指定処分をなしたが、その後、前記一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二の所有権が右横山から原告へ昭和二十八年十月三日受附をもつて移転登記されたことおよび前記一四〇番地、同一四四番地の所有権を、昭和二十七年三月六日訴外佐原真吉が競落取得したことを知つたのであるが、このように、二筆以上の従前の土地の換地予定地を、一括して一筆に指定した後、その従前の土地の各筆の所有者が事情の変遷によつて異つてくる場合には、換地予定地の権利関係が確定しないことになるので、被告は、原告と佐原の所有地について、新たに、所有者別に分割換地予定地の指定の必要を生じたので、前記のように原告のため宅地の一括利用の途を考慮の上、本件変更処分をしたのである。

(ロ)  仮りに右変更処分により原告が何らかの不利益をこうむるとしても、原告はつぎの理由で不服を述べることはできない。すなわち、昭和二十九年十一月五日附をもつて、原告と佐原とに対し分割換地予定地の指定に先立つて、当事者が予めその点について協定をしその結果を回答するように催告照会したが、右回答を得ることができなかつた。そこで被告は止むを得ず原告の意向を確めることなしにそれまでの換地予定地指定処分を変更して新たな換地予定地を指定したのである。結局原告は、従前の土地についての権利異動の届出を怠つたものであるから、特別都市計画法施行令第十一条の規定による郡山及び平特別都市計画事業土地区画整理施行規程第十九条に違反するので、同条第三項によつて、届出をなさないために生じた損害については異議を述べることができず、その上、原告は、被告の前記照会にも応ぜず土地区画整理事業に非協力的であるから、右新たな換地予定地指定処分に対してはこれを不服としてその取消を求めることができないものである。

と述べた。

(立証省略)

理由

被告が郡山市字郡山駅前一帯に施行された、特別都市計画法に基く土地区画整理事業の施行者であること、被告は右事業として昭和二十八年二月二十八日附をもつて、別紙第一図面の通り同市字燧田一四〇番地、同一四一番地の二、同一四四番地を従前の土地としてその換地予定地を、一括して一二ブロツク八号(郡山市字郡山駅前一五番地の六)に、同一四六番地のロ、同一四七番地の二を従前の土地としてその換地予定地を一括して一四ブロツク二号のロにそれぞれ指定したこと、その後昭和二十八年十月三日、原告は前記宅地一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二の所有権移転の登記を当時の登記名義人横山益造から受けたこと、訴外佐原真吉が、前記宅地一四〇番地、同一四四番地を同二十七年三月六日横山から競落取得しその所有権移転登記を経由したこと(この佐原の所有権取得の点は原告は明かに争わない。)、被告が昭和三十年四月十四日前記換地予定地指定処分を変更して、別紙第二図面の通り原告が所有する郡山市字燧田一四一番地の二、同一四六番地のロ、同一四七番地の二の換地予定地を、一括して一二ブロツク八号のロに、佐原真吉が所有する同一四〇番地の換地予定地を一二ブロツク八号のイ、同訴外人が所有する同一四四番地に対する換地予定地を一四ブロツク二号のロに、それぞれ指定したことは、いずれも当事者間に争がない。

(一)  そこで被告の右換地予定地指定の変更処分が適法であるかどうかについて判断する。

まず換地予定地指定の変更処分の法律的性質について考えてみるに、一旦なした換地予定地指定を変更することは、換地予定地指定処分を撤回して新たに換地予定地を指定する行為であると解される。従つてこの二つの問題に分けて考察する。

(1)  換地予定地指定の撤回について

一般に瑕疵なく成立した行政行為について将来にわたり、その行為の効力を存続せしめ得ない新たな事由が発生した場合に、たとえその行為が人民に権利又は利益を与えるとかその他法律上の権利関係を設定する行為であつても、これを撤回しなければならない公益上の必要があるならば、これを撤回し得るものと解すべきである。換地予定地指定は、工事完了後に行われる換地処分と異つて、整理工事の必要上行われる暫定的処分であるが、それ自身独立した行政行為としての効力を生ずるため、従前の土地の所有者その他関係者に対し義務または不利益とともに権利または利益をも与えるものであり、従つてこれを撤回するためには、公益上の必要がなければならないわけである。

成立に争ない乙第一号証の一、二によれば、昭和二十八年二月二十八日当時においては、前記一四一番地の二、一四六番地のロ、一四七番地の二につき原告が所有権を取得したことは未登記であり、一方佐原真吉が同一四〇番地、一四四番地を競落取得したことも被告は知らなかつたので、被告は、右各従前の土地がすべて横山益造の所有に属するものと考えて、前記のように、換地予定地を一二ブロツク八号および一四ブロツク二号のロの二枚に一括指定したことが認められるが、その後、一二ブロツク八号の従前の土地のうち、一四〇番地と一四四番地は佐原、一四一番地の二は原告の各所有に属することが判明したのである。このような場合、従前の土地の各筆の所有者ごとに更に各個に換地予定地を指定しないかぎり、各所有者の換地予定地は特定しないことになるのであつて、これは、特別都市計画法が換地処分前に換地予定地の指定を認めて当事者の便宜をはかるとともに、急速適確に区画整理を実施しようとする趣旨を没却し、その実効を完全に奏しないという結果になる。そこで、このような換地予定地の指定を撤回し、その後の事情の変遷に応じて従前の土地の各所有者ごとに換地予定地を指定するということは、当事者に一そうの利益を与えるだけでなく、さらに特別都市計画法に基く土地区画整理を実施する上において、公益上必要であるといわなければならない。もつとも、土地区画整理施行地の全部について工事が完了した後、従前の土地の各筆についてそれぞれ新所有者ごとに各個に換地処分をなしてもよいわけであるが、換地処分に先立つてこれに即応する換地予定地を指定することが、より一そう当事者の利益および公益に合致するわけである。

つぎに、前記一四ブロツク二号のロはその従前の土地である一四六番地のロ、一四七番地の二の二筆とも原告の所有に属するから、前記一二ブロツク八号のような撤回の必要性はないが、一二ブロツク八号の指定処分を撤回することになると、その従前の土地のうち原告所有の一四一番地の二はわずか十二坪三合であるため、過少宅地となり、独立して換地予定地を指定するに適せず、一四六番地のロ、一四七番地の二と合わせて一枚の換地予定地を指定するのが妥当であり、そのために一四ブロツク二号のロの指定処分を撤回することは、これまた公益上の必要があるといえる。

なお、原告本人尋問の結果により、原本の存在および真正に成立したことが認められる甲第六号証および成立に争のない甲第五号証の一を考え合わせると、昭和二十二年五月十日頃すでに原告の換地予定地として一二ブロツク八号が指定され(但し当時三十八坪)、これについて、原告と訴外柴原光利、横山益造、横山英夫との間に、昭和二十四年六月二日郡山簡易裁判所において訴訟上の和解が成立し、相手方柴原光利、横山益造、同英夫は、申立人である原告の換地予定地である一二ブロツク八号のうち二十坪について原告が所有権を有しかつこの二十坪は、原告の他の換地予定地(郡山駅前一五番地の八)と接続した場所であることを認める、という趣旨の条項が定められたことを認めることができる。

しかし、右和解は、区画整理事業そのものに何の効力も及ぼさず、換地予定地の所有権を確定するものではない(換地処分完了後ならともかくとして)のであるから、右和解の成立は前記換地予定地の指定処分の撤回を不必要ならしめるものではない。

以上のとおりであるから、本件の昭和二十八年二月二十八日附をもつてなされた換地予定地指定処分の撤回は適法であるものというべきである。

(2)  新たな換地予定地指定について

換地予定地の指定処分は、換地処分までの暫定的処分であつて、換地の第一段階的性格を持つのであるから、その指定の基準は換地処分の基準である耕地整理法第三十条第一項により従前の土地の地目、地積、等位などによるべきである。そこで本件変更後の換地予定地のうち、原告の換地予定地である一二ブロツク八号のロの指定処分が右基準によつて定められた行政庁の裁量の範囲内にあるかどうかを考察する。

成立に争のない乙第六号証および乙第七号証を考え合わせると、昭和三十年四月十四日附をもつてなされた換地予定地指定処分における従前の土地と換地予定地とは、地目は同一であり、地積については、換地予定地一二ブロツク八号のロは五坪の増歩をみている。また等位については、別紙第二図面の通りであつて、一二ブロツク八号のロと、原告の他の換地予定地である一五番地の八との間には、佐原真吉の換地予定地である一二ブロツク八号のイ(一五番地の七)が介在することが認められるが、同一人に属する換地予定地であつても、必ずしも一ケ所にまとめる必要はなく、しかも右一二ブロツク八号のイは原告の借地予定地として指定されており、一五番地の八、一二ブロツク八号のイ(一五番地の七)一二ブロツク八号のロ(一五番地の六)の三筆が一括して利用できるように配置されていることを認めることができる。もつとも成立に争ない甲第二、三号証によれば、佐原は一二ブロツク八号のイに原告の借地権の存することを否認していることが認められるが、この紛争については行政庁としては最終的に判断できないから、一応借地予定地としたもので、当然である。しかも原告は本件変更処分前の一二ブロツク八号についても、その所有権の指定はなく借地権の指定だけであつた(成立に争ない乙第一号証)から、とくに変更処分によつて右のような原告の不利益が発生したものとはいえないのである。なおこの点の認定に前記の訴訟上の和解は何の影響もない。

右各認定事実によれば、本件換地予定地の新たな指定処分は、前示耕地整理法第三十条第一項に照らしてみて被告の裁量の範囲を逸脱しないものと認めることができ、結局適法な処分であるというべきである。

(二)  以上のように本件昭和三十年四月十四日附をもつてなされた、昭和二十八年二月二十八日附換地予定地指定処分の撤回ならびに新なる換地予定地指定処分は、いずれも適法であるから、結局本件換地予定地指定の変更処分は適法であるということができる。

従つて、被告が右行政処分によつて、原告の権利をき損したかどうかという点については、判断するまでもなく、原告の本件請求は、理由がないものというべきである。

よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斉藤規矩三 小堀勇 逢坂修造)

(別紙)

第一図面〈省略〉

第二図面〈省略〉

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